地球を学び丸ごと楽しめる場所、近年話題になっている「ジオパーク」にはこんな意味があるそうな。伊東のジオパークを存分に楽しめる、それも「陸・海・空」で。そんなツアーがあるということで参加してみた。ツアーを運営する「GREAT NATURE TOURS」が提示してくれたプランは、空中散歩、サイクリング、シュノーケリングの3つだ。
最初に訪れたのは伊東のシンボル的存在の大室山。乗り場からリフトに乗って5分ほどで頂上の遊歩道へ。頂上に着いてまず目の前に見えるのは大室山の火口跡。この火口の淵に沿ってぐるりと1周20分ほどの散策ができるとこと。火口の底ではアーチェリー体験もできるそうなので機会があればやってみたい。時計回りにお鉢巡りを始めるといきなり絶景ポイント。伊東の市街地や海はもちろんのこと、天気が良いおかげか富士山まで。辺りを見ると皆ケータイ・カメラを構えて撮影中、確かにこの景色は記念写真にもってこい。少し進んで山の東側、ここからは海と伊豆諸島の島々が目の前に見える。こちらもまた劣らず絶景だ。沖に小さく見える船舶と同じように、上り坂をゆっくりと登って行く。標高580メートル、ちょうど南側が山頂部らしい。
下を見下ろすと水を蓄えた水田が青々と広がっている。
ここからは西側へと下り坂を進んでいく。進む先には山々が連なって、先ほどの海とはガラリと変わった眺めが楽しめる。天城連山、矢筈山、遠くに見える南アルプス、そしてまた富士山とみているうちに一周してきたようだ。リフト乗り場の土産物屋を見ると今では珍しい瓶コーラの自動販売機があったので、みたらし団子とともに購入して小休止。テラスから火口を覗くと風の流れに沿って青々としたススキやカヤが揺れているのが涼しげで印象深い。下りのリフトは先ほど頂上北側での絶景を見ながらゆっくり降りていく。まさに空中散歩をしているかのような気分になった。
リフト乗り場から出ると、ジオサイト案内板の前でツアーガイドの末光さんが待っていた。案内板を見ながら説明を受けると、先ほど頂上で見た東側の景色すべてが溶岩に飲み込まれたというから驚きだ。ここからは東側の先端、城ケ崎を目指して自転車での移動になる。末光さんが用意してくれたのはクロスバイク、まずは駐車場で簡単にレクチャーと練習を受ける。乗りやすく、ツアーの女性参加者でもすぐに慣れることができた。全員がクロスバイクに慣れたらいよいよ自転車での旅がスタート、まずは大室山の麓・桜の里へ向かう。
途中、大室山の噴火の際にできたという溶岩洞穴を見たり、先回りしていた末光さんに動画撮影してもらったりしながら桜の里へ到着。青々とした大室山をバックに参加者一同で記念撮影、ここでも周囲のジオや植物についての説明をしてもらった。次の目的地は池地区、山頂から見えた田園風景の辺りに向かって再出発。
池地区への道のりは林の中の道をひたすら下って行く。大室山周辺は木が少なく視界が開けていたので、森林地帯を進んでいくアクティビティ感をいっそう強く感じる。
林を抜け住宅地へと入り、水田地帯で一旦停止。先ほど山頂から俯瞰で見た水田と間近で見る水田の見え方のギャップが印象的だ。ここでは池地域のジオの説明や歴史・風土だけでなく、とある有名人にまつわる話など地元の人間でも余り知らない興味深い事をいろいろと聞くことができた。
また近くには近隣の農家でとれた野菜の無人販売所があり、ツアー参加者一同で立ち寄らせていただいた。坂道を下って行き、次の目的地は八幡野地区・八幡宮木の実や神社へと向かう。池地区の住宅地を抜けると風景が一変する。海が見えてきた。景色も良い。自転車が風を切り、照り付ける日差しさえ心地よく感じる。再び住宅地に入り、八幡野地区にある八幡宮来宮神社に到着。末光さんに神社の歴史や伝承の解説をしてもらうが、この神社の成り立ちや祭っている神様の話が非常にユニークで興味深い。境内に入っての第一印象は、ザ・パワースポットといった感じか。静寂な境内ではあるが、鎮守の森の木々のスケールに圧倒される。
天然記念物のシダ植物リュウビンタイに青々と苔むした石段、お社の脇にはなんと樹齢千年越えの大杉が鎮座している。社殿の装飾にも数々の特徴があり一つ一つ説明を受けるたびになるほど、と感銘を受ける。
神社を出発し少し進んだところで、末光さんからのガイド案内が入る。伊東市の天然記念物「高見のシイの木」、その大きさもさることながら特徴的なのは何と言ってもその形状。幹がグネグネと絡み合ったりコブ状になったりと、その異質さに圧倒される。シイの木と別れ進みだすともう間もなく自転車での旅の執着地点、伊豆高原駅だ。伊豆高原駅南側の駐車場に到着、自転車から降りここでひと休憩。背後にはつい数時間前までいた大室山の山頂が見える。大室山からスタートし、林を抜け、田んぼ道を走り、巨大な木々に圧倒されたこの道のり。それなりの距離を走ってきたはずなのにあまり疲労感はない。それもそのはず、このコースはほとんどペダルを漕がずにひたすら下り続けるのが目玉の一つとのこと。筋肉痛に悩まされることはなさそうだ。
伊豆高原駅のすぐ脇を流れる対馬川に沿って海へと向かう。坂道をまっすぐ下ること十数分、眼前に海が広がった。ここで末光さんからちょっと寄り道をするとのこと。目的地から反対方向に少し進むと展望デッキがあった。展望デッキから覗いてみると、先ほどまで自分の横を流れていた対馬川が海へと落ちていくのが見える。対馬滝だ。一昨日までの雨のおかげで川の水量が多く、滝の流れが激しく見えるのだという。逆に川に水が少ないと滝ができないこともあるそうだ。順路に戻り、今度は岩場を降りていく。大室山頂上との高低差580m!ついに海抜0mに到達した。
目的地の大淀・小淀は巨大な潮だまりで、まずはここでシュノーケリングの基礎を学ぶことになる。周囲を見渡すと同じようにシュノーケルを楽しんでいる人がいる。子供やお年寄りなどの家族連れだけでなく、外国の方々もいるようだ。末光さんが用意してくれた装備一式を着用。最近のシュノーケルは排水弁がついているらしく簡単に使うことができるという。マスクとフィンも着け、さらに安全のためライフジャケットも装着し、いざ水中へ。大きな潮だまりである大淀の中は流れが緩やかで練習にはもってこいだ。海面に顔をつけてみると水底まではっきり見える。透明度に感動していると、今日はまだ濁っているほうだとのこと。伊東の海にこれほど透明度があるとは思わなかった。潮だまりとはいえ泳ぐのに十分な広さのある大淀で、魚影を見るたび追いかけていたらいつの間にかシュノーケリングの基礎ができるようになっていたので、いよいよ目の前の大海原でシュノーケリングに挑戦することになった。やはり潮だまりとは違い、とにかく深くて緊張感はあるが、その分広々としてスケールが大きく、魚の種類も多い。フィンのおかげで潮の流れに負けることもなくスイスイと泳げるのは気分が非常に良い。末光さんに先導してもらいながら多種にわたる綺麗な魚を見ることができた。ふと海面から顔を上げると目の前の崖にかかる吊橋が見える。城ケ崎橋立つり橋だ。橋の上からこちらを見ている家族連れがいるので手を振ってみる。全力で手を振り返してくる姿が微笑ましい。吊橋を下から見る機会など今までなかった。岸壁に戻ると、何やらケータイやカメラを取り出している人がいる。どうやら岩場から飛び込む様子を撮影しているようだ。せっかくなのでこちらもつられて飛び込んでみる。岩場に立つと少々怖い気もするが、踏み出した瞬間の爽快感は格別だった。シュノーケリング体験、予想以上に伊東の海を満喫できた。
海から上がった後は、先ほど家族連れがいた橋立つり橋を渡り、八幡野港方面へと進む。吊橋上から海を見ていると、先ほど海上から見た景色が目に浮かぶ。先ほど空と地上からそれぞれ見た池地区の水田、そして今見ている吊橋。こんな体験はなかなかできることではない。これこそまさに「陸・海・空」の体験だろう。吊橋と森を抜け、向かった先は八幡野港・みなとや。今回のツアーの締めくくりはこの旅館の温泉だ。旅館4階にある展望風呂、目の前には八幡野港と太平洋が広がっている。汗と塩を洗い流してゆっくりと湯船につかる。洋上に浮かぶ伊豆大島を見ながら、ふとこの温泉も伊豆のジオの一部だなと思った。
今回させていただいた大室山頂上から城ケ崎まで高低差580mの陸海空丸ごと体験ツアー、自身が思っていた以上に知らない事、初めて体験することだらけで少年時代に戻ったようにワクワクした。普段あまり運動する機会のない自分だけでなく、ツアーに同行していた女性も体に無理なく参加できていたので家族で気軽にジオパークを体験したいという方にもお勧めできるツアーだった。
お問い合わせ先:GREAT NATURE TOURS(グレートネイチャーツアーズ)
伊東市東松原町12-5
TEL :050-3740-9340
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